神戸市を拠点に、6年以上にわたり野犬の保護活動を続ける「神戸アニマルレスキューPINKY」。
代表の藤本さんが始めた活動は、これまで約180頭もの命を救ってきました。そんなPINKYの活動の原点から未来への想いまで、代表の藤本さんに詳しくお話を伺いました。
「助けるしかない」の一心で。一頭の犬から始まった、神戸の野犬を救う活動

今や180頭以上の命を救ってきたPINKYの活動。そのすべての始まりは、代表・藤本さんの「助けたい」という純粋な想いが行動に変わった、ある日の出来事でした。
きっかけは、車窓から見えた一組の親子犬
保護犬活動を始めたきっかけは、車で走行中に見た一組の親子犬だったと藤本さんは語ります。
「ある日の朝、川沿いを母犬と生後2ヶ月くらいの子犬が必死について歩いているのを見たんです。それまでにも、野犬を職場の近くで見かけることはありましたが、直接向き合ったのはそれが初めてでした。成犬だけなら気にせずに終わっていたと思いますが、必死に母犬についていく子犬を見て、『これはもう助けるしかない』と思ったんです。」
それが、藤本さんが野犬と直接向き合った最初の瞬間でした。
「助けたい」と思った瞬間に、車から飛び出し子犬を保護した藤本さん。この出来事が、神戸の野犬と向き合うきっかけとなります。
「紬(つむぎ)」との出会い、そして次々と知る野犬の過酷な現状
一組の親子の野犬に出会った半年後、管理センターのホームページに掲載された一頭の犬を見て、「あの時の母犬だ」と直感します。
悩み抜いた末に管理センターと連絡を取り、引き出し団体の助けを借りて再会を果たしました。
そんな中、別の場所で子犬が生まれているという情報が舞い込みます。さらに別の場所では、15頭ほどの成犬が群れをなして生活していることも判明。
「野犬を引き出してくれる団体はほとんどありません。特に成犬は、人間に慣れそうにないと判断されれば処分されてしまう。保護しなければ、この子たちに未来はないんです。」
この強い想いが、彼女を本格的な保護活動の道へと突き動かします。
6年間で約180頭を保護。命と向き合い続けた日々と、忘れられない一頭の犬

藤本さんが活動を始めたのは2019年6月。そこから約6年間、数多くの命と向き合い続けてきました。
これまでの保護と譲渡の実績
これまでPINKYが保護した犬の数は、子犬も含めて186頭にのぼります。そのうち、129頭が新しい家族のもとへと巣立っていきました。
藤本さんは「この数字は、決して私一人で成し遂げたものではありません」と語ります。
「日々犬たちの世話をしてくれるボランティアさん、寄付や物資で活動を支えてくださる支援者の方々、そしてSNSなどで私たちの活動を広めてくれた皆さん。その一人ひとりの力が合わさって救われた、かけがえのない命です。」
しかし、活動はスムーズに進むわけではありません。
施設のキャパシティを超えてしまい、保護した犬を管理センターに預けざるを得ないこともありました。幸いにも、PINKYからセンターに預けられた犬たちは、新しい家族と出会うことができています。(※現在、家族を募集中の子もいます。)
一方で、藤本さん自身には忘れられない経験もあります。
「一度、保護が重なっていた時期に2頭の成犬が管理センターに捕獲されました。その時に『成犬ではちょっと今無理だ』と言っちゃったんです。もし半年待ってもらえたら救えた命でしたが、助けることができませんでした。その経験から、管理センターに捕まってしまった子は絶対に引き出そうと心に決めました。」
その言葉には、失われた命への後悔が強く滲んでいました。
両前足のない「悠里(ゆうり)」と過ごした一年半
約180頭の犬を保護してきた中でも、藤本さんが最も印象に残っているのが「悠里(ゆうり)」という犬です。
「ある日、『足に大きな怪我を負った野犬が死にそうだ』と電話がありました 。現場に行くと、コンテナの下で一頭の犬が両方の前足がなく、パンパンに腫れ上がり、ずぶ濡れの状態でじっとこちらを見ていました。」
「両方の前足がないこの子はどうやって生きていくんだろう」と思いながら、どうにか助けたい一心で連れ帰ったと振り返ります。
そこから保護された犬は「悠里(ゆうり)」と名付けられます。温め、食事を与え、治療法を探す日々。
骨が剥き出しの傷は薬が効かず、最終的に犬の断脚治療に詳しい岡山の病院まで足を運びました。
「『この子は断脚しなくても生きていける』という獣医師の言葉を信じ、毎日包帯を替え続けました。」
最後の望みを託した抗生剤が効き始め、傷は徐々に快方へ向かいます。
それまで歩いたことがなかった悠里は、室内で過ごすうちに人に慣れ、すんなりと歩けるようになります。
「悠里は1年半、うちにいました。うちの先住犬紬(つむぎ)も、悠里にだけは心を開いていましたね。本当に引き取るつもりでしたが、素晴らしい里親さんが見つかり、譲渡することができました。」と、涙ながらに悠里への思いを語ってくれました。
「野犬を家族に迎える」ということ。保護犬を迎えたいと考えている人へ

保護犬、特に野犬を家族として迎えるには、特別な心構えが必要だと藤本さんは力強く断言します。
野犬と暮らすための心構え
「正直、初めて犬を飼う方が野犬を迎えるのは、子犬であっても簡単ではありません。『ただ犬が飼いたい』『寂しさを埋めたい』という理由では難しいのが現実です。」
生後数ヶ月で人懐っこくても、成長するにつれて恐怖心から逃げようとすることがあると藤本さんは話します。
どの犬を迎えたいかによっても変わりますが、成犬はより一緒に暮らすことに相当の覚悟が必要になります。
神戸の野犬が持つ「神経質さ」の理由
特に神戸の野犬は、神経質で臆病な子が多いと言います。その背景には、市内でたびたび行われてきた野犬の一斉捕獲があります。
「市内で一斉捕獲と処分が進み山奥へ逃げ込み生き延びてきたのが、今いる犬たちです。人との距離が近い環境で生きてきた他県の野犬に比べ、人に慣れにくい特性を持っています。」
そのため、音にとても敏感だったり、子犬の頃から強い警戒心を持っていたりします。
「野犬は裏切ります。自分の身は自分で守ってきたという意識があるので、とんでもないことが起きた時には、飼い主の指示は聞こえなくなります。なので、『絶対に家族になる』という気持ちがなければ、野犬を迎え入れいるのは難しいでしょう。」
まずは「知る」ことから。お散歩ボランティアという選択肢
迎え入れに不安がある人には、まず「お散歩ボランティア」への参加がおすすめです。
「犬の飼育初心者さんこそ、ぜひボランティアに来てほしいです 。実際に犬と触れ合い、どんな子なのかを経験してから、預かりや譲渡を考えてもらうのが一番良いと思います。」
※PINKYでは、お散歩ボランティアを現在も募集しています。細かな条件はPINKYの公式インスタグラムをご確認ください。
活動の課題と、私たちにできること

野犬の保護活動を続ける上で、PINKYで課題となっていることについても伺いました。
「譲渡先の確保」という大きな壁
保護活動での最大の課題は、保護した犬たちの新しい飼い主を見つけることだと言います。
「譲渡してこそ、保護活動は成り立ちます。お見合い会で野犬の特性を正直に説明すると、『難しそうだね』と帰られてしまうことがほとんどです。」
譲渡が決まらなければ、次の犬を保護することもできません。
「PINKYのことをもっと知ってもらって、今いる犬たちに新しい飼い主を見つけてあげたい。」それが藤本さんの切実な願いです。
私たちにもできる支援の形
この記事を読み、「何かしたい」と感じた方へ。私たちにできる支援の形は、一つではありません。
「何か支援をしたいと言っていただいている方には、まずは、『保護犬の存在を周りに伝える』そして『ペットショップで買わない』ことを伝えています。」
まず、動物を迎える際の選択肢として、保護犬を考えてみることが支援の大きな一歩となります。
ほかにも、近く保護団体の掃除や散歩のボランティアへの参加や、金銭支援、物資の支援なども野犬たちの支援につながります。
「月々500円や1000円といった無理のない範囲での継続的な寄付があると、安心して医療をかけたり、おやつを買ってあげたりできます。」と話す藤本さん。
また、金銭的な支援が難しい場合は、物資の支援も助けになります。
ドッグフードやペットシーツだけでなく、使わなくなったバスタオルや毛布、トイレットペーパー、ハイターといった日用品も、日々の活動で大量に消費するため、非常に助かると言います。
目指すは「神戸の野犬ゼロ」。その先の未来へ

藤本が代表をつとめるPINKYは、「神戸の野犬ゼロ」を最終目標として日々活動しています。
「私がずっとやりたかったのは、『神戸の野犬がゼロになること』です。それは絶対に達成したい。」その言葉には強い決意が宿っていました。
一方で、神戸の野犬が本当にゼロになったときには、保護活動を終えるつもりだと藤本さんは話します。
その考えの背景には、保護活動家が常に向き合わざるを得ない「理想」と「現実」の葛藤がありました。
「今家族が見つかっていない子たちはどんどん老いていくので、これからしっかりとお世話をしてあげないといけません。なので、今いる子たちのために時間を使いたいですね。助けてきた子たちすべてに家族が見つかるなら、もっともっと助け続けたいと思っています。」
最後に伝えたい、読者へのメッセージ

最後に、藤本さんは保護犬を迎えるということの重みを改めて語ってくれました。
「保護犬は、そもそも普通の犬ではありません。様々な過去を背負いながらも、誰かの愛情によって傷ついた心や体をケアしてもらい、『次こそ生涯幸せになってほしい』という願いを込めて、初めて譲渡されます。だからこそ、それなりの覚悟を持って迎えなければいけないんです。」
保護された犬たちは、ボランティアや支援者、活動を応援してくれた人たちのおかげで助かった命。
多くの人の手によって繋がれてきた命のバトンを受け取る、それが保護犬を家族に迎えるということなのだと、藤本さんは静かに語ります。
「保護犬を迎えようと考えている方には、どうか「最期まで飼えるか」を真剣に考えてほしいです。自信がないなら、今は諦めるというのも大切な選択です。命を預かることの重みを、どうか忘れないでください。」
この記事で紹介できたのは、PINKYの活動のほんの一部です。
「野犬をゼロにする」という大きな目標も、まずは多くの人が「知る」という小さな一歩から始まります。
PINKYで新しい家族を待つ犬たちの日常や、ボランティア募集などの最新情報は、公式インスタグラムで日々発信されています。
PINKYや野犬についてもっと知りたいと感じた方は、公式インスタグラムをぜひチェックしてみてください。
▼神戸アニマルレスキューPINKY 公式インスタグラムはこちらから
※PINKYはトリミングサロンを併設しています。そのため、保護犬についての問い合わせや支援物資をお持ちいただく際は、必ず事前にご連絡をお願いいたします。
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